元BEAMS ディレクター 山崎勇次 とFUMITO GANRYU 丸龍文人が語る「U/MUSIC」
Edit & Text by Yukihisa Takei(HONEYEE.COM)
Photo by Atsutomo Hino
いつの時代もアイコン的ミュージシャンたちが着こなすファッションはトレンドを生み、その音とスタイルは一体となって次の世代のクリエイターたちも刺激してきた。中でも「バンドT」、「ロックT」と呼ばれるマーチャンダイズは、アーティストたちへの忠誠心を体現するものでありながら、時にファッションとなり、数々の二次創作も数多生まれるカルチャープラットフォームでもある。
近年ヴィンテージ古着は高騰しているが、その波は音楽系Tシャツの分野でも顕著だ。そんな中、数々のアイコニックなアーティストを擁するUNIVERSAL MUSIC(ユニバーサルミュージック)が、音楽カルチャーとファッションを結びつける新プロジェクト「U/MUSIC」をスタートした。
外部からディレクションを手がけるのは、International Gallery BEAMSで長年バイヤーを務めた山崎勇次。そして山崎からそのTシャツのボディ制作を依頼されたのが、FUMITO GANRYUのデザイナー、丸龍文人だ。今回新レーベルの立ち上げに際し、この両名による対談が実現した。二人の音楽カルチャーとファッションへの視点、そしてU/MUSICのこれからについて聞いた。
ユニバーサルミュージックにおけるファッション部門
以前は現在より数多くの音楽レーベルが林立していたが、音楽マーケットの再編成や統合によって、ユニバーサルミュージックはかつて以上に大きな存在となっている。現在活動しているアーティスト、これからデビューするアーティスト、そして現在は活動こそしていないが、その音源やアートワーク、肖像権が大きな意味を持つアーティストを膨大に擁する同社は、その“知的財産”をもっとオープンに活用する方法を模索していた。
一方、ファッションの分野でも、ブランドのエッセンスを表現する手段として音楽アイコンを活用する頻度は増えていた。ところが特にアーティストの肖像やロゴを使用する場合、その権利元の所在が掴めなかったり、海外アーティストの場合に交渉が難航し、成立しない事例も頻繁に起こっていた。その双方のニーズを叶えるプラットフォームとしてユニバーサルミュージックが立ち上げたのが、今回の「U/MUSIC」である。そしてこのプロジェクトの外部ディレクターとして招聘されたのが、元BEAMSディレクターの山崎勇次だ。
山崎 : 自分はBEAMS初期からのメンバーで、2021年に退社したのですが、International Gallery BEAMS (インターナショナルギャラリー ビームス) のバイヤーやディレクターを25年やりました。同じセクションにそれだけ長くいるのは珍しいと思います。奇しく現在頻繁に通うようになったユニバーサルミュージックとBEAMS本社が入っているのは同じビルなので、実はフロアを移動しただけなのですが(笑)。
International Gallery BEAMSといえば、アメカジ色の強いBEAMSの中でも、ユーロッパ方面やモード系ブランドの扱いも多く、時代の一歩先を行くセレクトが特徴。そこに若い頃に通っていたと話すのが、FUMITO GANRYU (フミト ガンリュウ) のデザイナー、丸龍文人だ。
丸龍 : 学生時代にInternational Gallery BEAMSに通っていました。特にOKINI などのセレクトは、ヴィンテージジーンズにエンジニア的側面を持ち込んだ存在として自分に刺さり、当時は本当に何本も買わせてもらっていましたね。
実際COMME des GARÇONS時代の丸龍がデザインを手がけたブランド GANRYU もInternational Gallery BEAMSで取り扱いがあり、その縁もあって山崎の頭の中に今回のプロジェクトに丸龍の存在が浮上したという。
山崎 : 今回の「U/MUSIC」では、ユニバーサルが持っている知的財産と日本のファッションブランドを繋ぐ橋渡し的存在として僕にお声がかかったのですが、同時にオリジナルのTシャツボディも製作して、独自に販売もするというもう一つのミッションもありました。BEAMS時代にたくさんのデザイナーやディレクターとの関係性を築けたので、誰にお声がけするか色々と考えたのですが、Tシャツのボディということもあり、やはり「パターンメイキングに長けた方」が良いと考え、丸龍さんにお願いしようということになりました。
さまざまなカルチャーにダイブした二人
GANRYU時代、そして現在のFUMITO GANRYU においても、あまりアイコニックな音楽カルチャーとコラボレーションをした経緯は見られないが、実はデザイナーの丸龍自身は、音楽はもちろん、さまざまなカルチャーに高い関心を持つ人物だ。
丸龍 : 音楽は本当に好きでしたね。今回のユニバーサルミュージックに所属している中にも大好きなアーティストはいますが、僕は当時CDショップのスタッフの方のレコメンドを読んで買うのが好きで、そこから色んなジャンルの音楽、中には結構マニアックと呼ばれるアーティストも偏愛してきました。自分が好きな音楽の傾向? 特に若い頃はあらゆるジャンルで「イケてるもの」を追い求めていたので、どれかに絞ると変な印象がついてしまいそうで(笑)詳しくは書かないで欲しいですが、メジャー、アンダーグラウンド問わず、評価なんか度外視で自分の世界観を極限まで追求しているアーティストが好きです。良い意味でどこか狂っているアーティストというか。
山崎 : 丸龍さんにお声がけした段階では、どちらかというとファッション方面、あくまで「パターンメイキングに強い方」としてだったので、実はかなり音楽に詳しい方だったのは、嬉しい誤算でしたね。僕自身もBEAMSという会社の特性で、服だけじゃなくカルチャーまで深く知ることを求められる環境だったので、今回のプロジェクトにもそれが役に立っています。
丸龍 : 私も同じです。音楽もそうですが、中高生の頃はスケートボードに熱中していて、その後はモッズに憧れてベスパをネジ1本のレベルまでこだわってカスタムしたりもしていたし、同時期にあるジャンルのクラブミュージックにもどっぷり浸かっていました。当時それぞれのフィールドには原理主義的な考えの人も多くて、「別の趣向のアイツらと仲良くしてはいけない」みたいな風潮も強かったのですが(笑)、自分はさまざまなフィールドに興味があったので、そこを上手く渡り歩くようにしていました。
丸龍のその興味のフィールドはもちろん「バンドT」にも及び、当時はロンドンのセディショナリーズといった、今やお宝レベルに貴重な音楽Tシャツにも袖を通していたこともあるという。そうした経験は、今回のプロジェクトの精神面にも反映されている。
丸龍 : 自分もそうでしたが、音楽好きな方というのは、やっぱりファッションにもうるさい方が多いんです。グラフィックだけではなくて、そのシルエットやサイズ感にもこだわりがある。私が今回ボディのお話をいただいてまず考えたのは、さまざまなジャンルのアーティストに汎用性がある必要性、載せるグラフィックなどをデザインが邪魔しないことでした。ボディということで、おそらくワンシーズンのみで終わりになるのではなく、数シーズン、数年使われることも念頭に入れてデザインを始めました。
“壊すことは創ること”
今回「U/MUSIC」では、通常のノーマルなボディ、そしてFUMITO GANRYUによるボディの2種類を使い分けることになるという。残念ながら取材時点では丸龍によるデザインのボディはサンプルが上がっていない状態ではあったが、山崎と丸龍のやりとりを聞くだけでも、相当な熱量で取り組まれたことが分かってくる。
山崎 : 丸龍さんのデザインやパターンには、音楽的な表現を借りるなら「パンク精神」のようなものを感じるんです。デザインの際は、変化させようと思っているのか、壊してやろうと思っているのか、どちらの意識が強いですか?
丸龍 : 「壊すことが創ること」とよく言いますけど、新しいものを作るというのは概念を壊すことでもあり、まさにそういうマインドでものづくりに取り組んでいます。服のクリエイションには色んな方向性がありますが、私の場合は生地など表面上の効果を取っ払って、素の状態であってもデザイン性が残っていることを目指しています。それはCOMME des GARÇONS時代から教え込まれたことでもあるのですが。今回のボディでも、プリントが載ることを意識した上で、何もグラフィックが載らなくてもデザインが入っているものにしています。ただし私の存在が邪魔にならず、しかも汎用性も必要な新しい試みだったので、簡単ではありませんでした。
そうした考えのもと、丸龍がたどり着いたのは、「着ている人が自らカスタマイズできる」という、当たり前なようで斬新なアイデアだった。この提案には山崎も驚いたという。
丸龍 : Tシャツのシルエットのトレンドや時代の気分は、シーズンごとに変わります。だからこそ一過性になりがちな「極端なデザインは入れない」というルールを自分に課しました。そこで今回はボディの裾と袖にカンヌキの仕様を施すことで、ユーザーが自分の家庭用のハサミで裾や袖をカットしてもほつれず、好きなレングスにカスタマイズできるようにしているんです。また、パンク系のTシャツには多い、縫い代を表面に出す「インサイド アウトサイド」という少しマニアックな技法も用いてもいます。これも私自身、昔から買ったTシャツを自分でカットしていた経験から来たものです。
音楽、ファッション、その入り口はどちらでもいい
1966年生まれの山崎、そして1976年生まれの丸龍、10歳の年齢の離れた二人ではあるが、そこには共通の音楽体験があるという。
丸龍 : 以前は音楽とアルバムジャケットなどのグラフィックは、もっと密接だったと思うんです。フィジカルで購入していた時代のレコードジャケットやCDのカバーは、常に脳裏に刻み込まれていたものでした。でもダウンロードや配信になって、そのアートワークはほとんど記憶に残らなくなってしまった。今は気になる音楽にすぐにアクセスできる素晴らしい環境ではあるのですが、“その楽しみ”が減ってしまったような気がするんです。
山崎 : 僕もアルバムを買ってきて、ジャケットやライナーノーツを見ながら酒を飲む時間が大好きでした。今もその感覚を大切にしたいし、自分の好きな楽曲は手元に持っておきたいんです。だから今も自分ではサブスクはほとんどやらず、ダウンロードして購入する音楽ライフです(笑)。
そんな二人が「U/MUSIC」のプロジェクトに期待するのは、音楽アートワークのさらなる可視化。かつては当たり前に存在していたものを、再びファッションという形で世に問いかけるというものだ。
山崎 : 今回の「U/MUSIC」の発表後、いろんな反響をいただきました。さまざまなアーティストのグラフィックがよりオープンになったことに反応する音楽寄りの人もいれば、FUMITO GANRYUとの取り組みに興奮するファッション寄りの人もいました。BEAMS時代とは視点の違う反応だったのが嬉しかったです。特に今の若い世代は、先にファッションやグラフィックからアーティストを知ることも多いですよね。入り口は音楽でもファッションでもどちらでも良くて、最終的に音楽をもっと楽しんでもらうものになれば良いと思います。
丸龍 : 今回こうして取材もお受けしていますけど、僕の存在はあくまで“黒子”だと思っています。デザイナーとしての僕は主張せず、アーティストのグラフィックを最大限に活かす、アーティストの個性をドライブさせる、そして着る人自身が主役になって、カルチャーとしての音楽を楽しんでもらいたい気持ちです。それが僕の音楽カルチャーに対するリスペクトの表現でもあるんです。
今回FUMITO GANRYU がデザインを手がけたのは、音楽マーチャンダイズとしては定番のTシャツ、ロンT、そしてフーディーの3種で、2025年春には市場に登場する予定となっている。ファーストコレクションではロックをテーマに定め、The Who(ザ・フー)、PANTERA(パンテラ)、SCORPIONS(スコーピオンズ)、DEF LEPPARD(デフ・レパード)、IMAGINE DRAGONS 等の約 10 アーティストにフィーチャー。ジャケットやアートワークがプリントされた T シャツ、ロンT、スウェット等が展開される。
山崎勇次 | Yuji Yamazaki
1966年生まれ。長崎のセレクトショップで経験を積んだのち、1989年にBEAMS入社。1995年から26年間、International Gallery BEAMSのメンズバイヤー、レディスとメンズのディレクターを歴任。欧米のメゾンブランドをはじめ、LAのサーフカルチャーやロンドンのロックシーンを背景にしたブランド、アーティストとの取り組みを積極的に行う。2021年11月コンサルティングオフィスYCMI設立。外部ファッションディレクターとして参画。文化服装学院では、インダストリアルマーチャンダイジング論の授業を行う。
https://www.instagram.com/yucanyamazaki/
丸龍文人 | Fumito Ganryu
1976年生まれ。文化ファッション大学院大学卒業後、2004年にCOMME des GARÇONSに入社。JUNYA WATANABE COMME des GARÇONS のパタンナーを経て、同社内でGANRYU をスタート。その後独立し、2018年にシグネチャーブランドFUMITO GANRYU を設立。ピッティ・イマージネ・ウオモに て招待デザイナーとしてデビュー。翌 2019 年より、パリ・コレクション公式スケジュールにてコレクションを発表している。近年はメインラインのほか、よりクリエイションの自由度を高めたFUMITO GANRYU RED LABELも始動。
https://online.fumitoganryu.jp/
https://www.instagram.com/fumitoganryu/
[編集後記]
International Gallery BEAMSの名物バイヤーであった山崎さん、そしてFIMITO GANRYU の丸龍さんはそれぞれファッションのフィールドでの活躍の印象が強いが、実際に今回対談の場を設けて分かったのは、お二人とも音楽だけでなく、さまざまなカルチャーに興味を持ち、体験をしてきた共通点があることだ。対談は途中でかなりマニアックな音楽、カルチャートークになりかけた瞬間もあったが、取材の本筋とはズレるので、割愛させていただいた。言えるのは、今回の「U/MUSIC」が、カルチャーを愛する“本物”の人たちの手によって生まれているということ。カルチャーとファッションに散財を繰り返してきた自分にとっても期待の持てるプロジェクトだと感じた。(武井)